呉座勇一『陰謀の日本中世史』ebook

陰謀の日本中世史 (角川新書)

タイトルには「中世」とあるが、扱われている時代はもう少し広くて平安末期から関ケ原の合戦まで。第一章が保元の乱と平治の乱、第二章が平氏の滅亡・鎌倉幕府成立と義経討伐、第三章が鎌倉時代の陰謀、第四章は鎌倉幕府崩壊から室町幕府初期、第五章は応仁の乱、第六章は本能寺の変、第七章は関ヶ原の合戦。それぞれの戦乱に関して「結果から逆行して原因を引きだす」陰謀論が紹介されている。そして終章は「陰謀論はなぜ人気があるのか?」と題して陰謀論の特徴と人々がそれを信じてしまう理由を分析している。

陰謀論には、古くから人口に膾炙している俗説もあるし、最近提唱された新説もある。どちらに対しても、次のような方法で否定してゆく。

  1. きちんと文献にあたりつつ、その記述を全面的に信用はせず、その成立経緯によるバイアスを考慮する。
  2. 文献に書かれていない部分に関しては、それぞれの人物が与えられた情報に基づき合理的に行動したと仮定して仮説を組み立てる。

筆者も認めているように提示されているのはあくまでも仮説であってそれが絶対的に正しいわけではない(人はいつも合理的に行動するわけではないし)。だが、これこそが歴史学の方法論そのものだ。根拠のない陰謀論に比べればはるかに確からしいが、複雑、あいまいでわかりにくいという欠点がある。そのあたりが陰謀論がはやる原因のひとつではないかと、筆者も終章で分析している。

日本史というと戦国時代や幕末ばかりに注目が集まってしまうが、こうして読んでみて、平安から鎌倉にかけての中世がとてもおもしろいことに気がついた。

★★