鼓直編『ラテンアメリカ怪談集』
収録作は以下の通り。過半数がアルゼンチンの作家の作品だ。
- ルゴネス(田尻陽一訳)『火の雨』 - ARG
- キローガ(田尻陽一訳)『彼方で』 - GTM
- ボルヘス(鼓直訳)『円環の廃墟』 - ARG
- アストゥリアス(鈴木恵子訳)『リダ・サルの鏡』 - GTM
- オカンポ(鈴木恵子訳)『ポルフィリア・ベルナルの日記』 - ARG
- ムヒカ=ライネス(木村榮一訳)『吸血鬼』 - ARG
- アンデルソン=インベル(鼓直訳)『魔法の書』 - ARG
- レサマ=リマ(井上義一訳)『断頭遊戯』 - CUB
- コルタサル(鼓直役)『奪われた屋敷』 - ARG
- パス(井上義一訳)『波と暮らして』 - MEX
- ビオイ=カサレス(安藤哲行訳)『大空の陰謀』 - ARG
- モンテローソ(井上義一訳)『ミスター・テイラー』 - GTM
- ムレーナ(鼓直訳)『騎兵大佐』 - ARG
- フエンテス(安藤哲行訳)『トラクトカツィネ』 - MEX
- リベイロ(井上義一訳)『ジャカランダ』 - PER
はっきり名前を知っているのは、ボルヘス、コルタサル、パスくらい。あとはせいぜい名前をきいたことがあるくらいだった。ラテンアメリカ文学といえばマジックリアリズム的な作品を期待してしまうが、収録されているのは、かなり幅広くとらえた「怪談」だ。
『火の雨』は不可解な自然現象だし、『彼方で』は霊となった死者の側の物語だ。『円環の廃墟』はさすがボルヘスとしかいいようがない夢みるものが夢みられる物語。『リダ・サルの鏡』は幸福を夢みる若い女性の因縁めいた悲劇。『ポルフィリア・ベルナルの日記』は少女の日記に翻弄される家庭教師、『吸血鬼』は20世紀のコミカルな吸血鬼譚、『魔法の書』はボルヘスばりの書物をめぐる奇譚。『奪われた屋敷』はカフカ的な不条理もの(既読だった)。『波と暮らして』は文字通りの話だけど、とてもロマンチックで痛々しい。『大空の陰謀』は平行宇宙もののSF。『ミスター・テイラー』はアナクロなブラックユーモア、『騎兵大佐』は悪ふざけと臭気に特徴付けられた怪異。『トラクトカツィネ』は唯一怪談らしい怪談。最後の『ジャカランダ』は徐々に事情が明らかになる抑制された語り口がいい。
あとがきに代えての、ボルヘスやコルタサルたちの架空座談会がおもしろい。
★★