チャールズ・ブコウスキー(青野聰訳)『ありきたりの狂気の物語』

ありきたりの狂気の物語 (ちくま文庫)

34篇からなる掌編集。どの作品にも作者を思わせる人物が出てくる。ほとんど一人称だし、チャールズ・ブコウスキーと名乗る作品も多い(「ハンク」と呼ばれているのも彼の本名ヘンリー・チャールズ・ブコウスキーのヘンリーの愛称だ)。特に後半の作品にはエッセイといったほうがいいような作品もあって{冒頭の作品が一番虚構度が高くだんだん日常的になっていく感じ)大雑把に私小説集とくくってしまっても間違いではないだろう。まあ、それがどの程度現実のブコウスキーの人生を反映しているかはまた別の話だ。文中酒を飲みすぎでもうすぐくたばるというような表現が何度も出てくるが、彼は1920年生まれで1994年まで生きている。思ったより長生きしてる。

各作品のタイトルは妙な要約でなく直訳のほうがよかった。Animal Crackers in My Soup は『狂った生きもの』ではなく『俺のスープの中の動物クラッカー』のほうがずっといい。

卑語・猥語頻出だが、だからこそ美しくて深い洞察に満ちた表現がきいてくる。ブコウスキーは第一には小説家ではなく詩人なのだ。

「人は自分にはもう生気がないと思うことで、それが残っていることを知るものだ」。