ブルース・チャトウィン(芹沢真理子訳)『パタゴニア』
パタゴニアとは、日本からはちょうど地球の裏側、南米大陸の南端に位置する地域を指す。自然が過酷でとにかく風が強い。西の太平洋に面したチリ領は海岸近くまでアンデス山脈が迫り、フィヨルドが発達しところどころ氷河に覆われる気候で、大西洋に面したアルゼンチン領は空気が乾燥し、広大で不毛な平原や砂漠に覆われている。
筆者のブルース・チャドウィンは1940年生まれで1989年にエイズで亡くなっている。本書のベースとなった旅は1974年、出版は1977年だ。思ったより最近だった。というのも描かれている年代は概ねその数世代前の出来事だからだ。
紀行文といってもいろいろだが、本書は目で見たものにとどまるのでなく、俯瞰して地誌を語るのでもなく、その合間からたちのぼる物語を語ろうとしている。絶滅した巨大なナマケモノミロドンの皮(当初恐竜の皮だと思われた)をめぐる物語、それを著者の祖母に贈った従兄チャーリー・ミルワードの波乱の生涯、映画『明日に向かって撃て』のアウトロー3人組、ブッチ・キャシディ、サンダンス・キッド、エタ・ブレースの逃避行、その他何人もの入植者やはぐれものたちのたどった軌跡……。