Future Visions: Original Science Fiction Inspired by Microsoft
Microsoftが著名なSF作家を研究所に招いて最新のテクノロジーを見学してもらい、それから着想を得て書かれた作品を一冊にまとめたアンソロジー。電子書籍で無料で配布されている。収録されているのは9編(うち1編はグラフィックノヴェル)。
The Hobbitを読み終えた余勢を駆って古臭い時代がかった英語よりは読みやすいだろうと思ったんだけど、SF小説には、それが一般的な言葉なのか小説の中で新たに定義される用語なのか、またありふれた出来事なのか驚くべきことなのか、という判断が必要という別種の困難があって、やっぱり苦労させられた。
一応読んだという証明をかねて内容を簡単に紹介すると、
- Hello, Hello by Seanan McGuire
- 手話と音声による会話がスムーズに翻訳できるようになった時代、聾啞者の姉の家から見知らぬ人物のテレビ電話が届く。
- The Machine Starts by Greg Bear
- 1024 qubitの量子コンピュータの稼働に成功したTiflinのチームに奇妙な出来事が起き始める。
- Skin in the Game by Elizabeth Bear
- ショービズの世界を舞台に感情を共有する新しいデヴァイスとそれにまつわる事件をミステリー仕立てで。
- Machine Learning by Nancy Kress
- 娘と妻を相次いで亡くした過去から立ち直れないAI研究者の苦悩と慰め、一進一退の研究の様子がオーバーラップしながら描かれる。
- Riding with the Duke by Jack McDevitt
- 映画の登場人物になりきれるデバイスをフィーチャーしつつ、物理学を志したものの挫折した男の恋と新たな挑戦を描く。
- A Cop’s Eye by Blue Delliquanti & Michele Rosenthal
- カラーグラフィックノヴェル。ある警官とコンビを組むAIが失踪中の少女を探す。
- Looking for Gordo by Robert J. Sawyer
- 異星人から送られてきた画像や情報を解析し異星人のAIを構築して情報を効率よく取得できるようになっている。地球が同様に情報を送ることの是非を問う模擬裁判が開かれる。
- The Tell by by David Brin
- 目まぐるしく舞台が転換する冒険物。予言可能なシステムがテーマ。
- Anothor Word for World by Ann Leckie
- 一つの惑星に同居する二つの民族の間に戦争の危機が迫っている。両国の象徴的な存在である老女と彼女の孫くらいの少女が和平のための会談をしようとするが、二人が乗った飛行機が撃墜させられてしまう。テーマは翻訳。
どれも現在研究中のテクノロジーがベースになった物語なのでこれぞSFというような大きな不思議や謎はない。面白く読めたのは Machine Learning と Riding with the Duke。感情のメリハリがついてわかりやすかった。一番苦労したのは The Tell。展開が早いし俗語表現が駆使されていた。当たり前だが同じ英語でも作家によって全然違う。