ブッツァーティ『神を見た犬』

神を見た犬 (光文社古典新訳文庫 Aフ 2-1)

1906年に生まれ1972年に亡くなったイタリアの小説家ブッツァーティの短編集。

ブッツァーティなんて(日本人にとっては)とてもおぼえにくい名前だけど、難解なところはどこもなく、訳文もこなれていてとても読みやすかった。

おおざっぱにジャンルに関連づけると幻想文学ということになるらしいが、もうちょっと絞り込んでこんな感じというのは難しい。最初思いついたキャッチフレーズはイタリアの星新一だが、シニカルな視線や巧妙なオチは共通するものの、そこまで濾過されてなくてかなり土着的なにおいがする。聖人や教会に絡んだ話が多いので、カトリックのエバンジェリストかとも思ったが、神を擬人化したり司祭を茶化したりする描き方は正統的な信仰とは相容れないはずだし、特に道徳的な寓意が強調されているわけでもない。謎めいたストーリーにカフカを連想させるところがないではないが、根源的な不条理が描かれているわけではない。

まあ、そんなことを考えるのはやめて、一編一編の不思議な味わいを楽しめばいいんだと思う。