安部公房『燃えつきた地図』
安部公房再読シリーズ第2弾。
一応探偵小説の形式をとっていて、興信所に勤める主人公の「ぼく」が依頼を受け、失踪した男を探すというストーリー。探偵小説の場合は、謎の量は終盤になるまで増減をくりかえしながら、最後に一気に0になるというトレンドをたどるけど、この小説では、起きる出来事が謎なのかそれとも手がかりなのかよくわからないまま、同じところをどうどう巡りしているような状態が続き、最後に謎は解決せずに発散する。
安部公房としては珍しいような気がするけど、舞台になっている1967年という年代を強く意識させる小説で、小説の冒頭に昭和42年と明記してあるほか、コーヒー80円とかの値段や、プロパンガスが都市ガスに切り替わっていくといったあたりの背景が時代を特定している。考えてみると、この小説のテーマである「失踪」という現象も、社会的属性が非常に強くアイデンティティに結びついていたこの時代に特徴的なことで、今も同じように人は失踪しているけど、それはまた別の意味合いを持っているような気がする。だからこそ、「ぼく」は探偵という属性を失うと同時に自分の地図まで失わなくてはならなかったのだ。それで「ぼく」は自由を手に入れることができたけど、現代の失踪者にそれは可能なのだろうか。