大谷能生×山縣太一『海底で履く靴には紐が無い』

海底で履く靴には紐が無い

実質的には大谷能生さんのひとり芝居。大きな枠でいうとチェルフィッチュ系で(それも当然で作・演出・振付の山縣太一さんはチェルフィッチュの主要なプレイヤーのひとりでまさにその世界観を作りあげてきた人だ)、つまり俳優が奇妙な痙攣的な動きとともに日常的な出来事をモノローグ的に語るというダンスと演劇の融合的なスタイルだ。今回の作品はそれをかなりダンスよりに動かしている。つまり、動きはとてもハードになり(終演後の大谷さんの疲労困憊ぶりがとても微笑ましかった)、物語はほぼ静止したまま動かない。

「ちょっと。ちょっと、手をとめて話をきいてくれる?」という何度も繰り返されるフレーズとともに、中年上司が、若い男女の部下二人(二人はつきあっている)に声をかけて「ノミニケーション」に連れ出そうとする。演劇としての内容はほぼそれの繰り返しだ。ハードで不安定な身体の動きはその痛ましい努力を可視化したものともいえる。くすりと笑ってしまうシーンがいくつもあるが、観客はその準備ができてなくて笑い声が上がらないのがもったいないといえばもったいない。考えてみると、恋人二人の間で居場所を得ようとするこの上司の存在は不可解で、演劇的な存在だ。

ダンスについて語るべき言葉は持たないのだけど、男の部下役の山縣さんが大谷さんの言葉と動きをまねるシーンは鳥肌がたった。模倣なんだけどオリジナル以上にオリジナルと感じたのも、振付した本人だから当たり前ともいえるが、何かが憑依したような凄みのある動きだった。

作・演出・振付:山縣太一/横浜STスポット/自由席2500円/2015-06-05 20:00/★★

出演:大谷能生、松村翔子、宮崎晋太朗、山縣太一