オフィスマウンテン『能を捨てよ体で生きる』

能を捨てよ体で生きる

ぼくがよい観客になれないことは観る前からわかっていたのだが、スパイスのインタビューに啓発されて、自分の目で確かめようと思った。結果として、中に入り込めない完全な傍観者として60分間、ここにいていいのかという居心地の悪さを感じ続けたのだけど、それでも一部始終見届けたつもりではある。

「能」というのは実質「脳」のことで、この作品を貫いているものがあるとしたら、脳の言うことをきかない体だ。インタビューで語られた内容や一箇所でているセリフからすると、演出家のいうことをきかない俳優を指しているのだろう。実際、俳優たちの体の動きは予測不能で、タコやイカなどの頭足類の脚がてんでんばらばらに動いている様を思わせる。演出家が脳として圧倒的な権力をふるう脊椎動物的演劇から各脚がそれぞれ自律的に動く頭足類的演劇へいうとわかりやすい気がする。

今回セリフは、断片的なモノローグで、しかもラップのリリックみたいに過剰なライムで意味が脱臼されていく。10月にみたお布団『蔵々を絶する』のように観客の想像力をハックできる方法だと思うので、もっと突き詰めてもいいんじゃないか。むしろ、今回のようにあらかじめばらばらのテキストを使うんじゃなく、いったん統合されたものを解体してゆくアプローチの方が効果的なような気がした。

作・演出・振付:山縣太一、大谷能生、横田僚平、矢野昌幸、児玉磨利/STスポット/自由席3000円/2018-12-14 20:00/★

出演:大谷能生、横田僚平、矢野昌幸、児玉磨利