カタルシツ『地下室の手記』

カタルシツ『地下室の手記』

イキウメの別館カタルシツ第1回目はドストエフスキーの小説『地下室の手記』の舞台化。ほぼ一人芝居になりそうで集中力がもつかどうかちょっと不安だったが、安井順平さんの語りが予想以上にすばらしくて飽きることがなかった。一人芝居は客席との対話なのだ。通常の俳優としての力量とは別の能力を要求される気がする。

舞台を現代日本にうつして手記じゃなくニコ生放送という体をとっているが、ちゃんと原作第2部の友人たちや娼婦リーザとのエピソードが主軸になっている。背景に流れるニコ生の弾幕、ラストに語り手がつぶやく「データになりたいよ」という言葉、現代的な要素を取り入れたすばらしいギミックだった。古典というのは普遍性とエンターテインメント性をかねそなえているから古典になっているわけだが、『地下室の手記』は今でも十分おもしろおかしいし、痛切だ。「陳腐な幸福と高貴な苦悩」という偽りの二択から逃れられない自意識は今も昔もかわらない。

原作:ドストエフスキー、脚本・演出:前川知大/赤坂レッドシアター/指定席3800円/2013-07-27 19:00/★★★

出演:安井順平、小野ゆり子