サンプル+青年団『地下室』

地下室

サンプル旗揚げ前の松井周作品の再演。

舞台はおいしい水がヒット商品である自然食品ショップの地下室。水は店長の「息子」森男しか作ることができず、その製法には秘密があった。実は息子といっても血はつながっておらず、スタッフはほぼ全員性的関係を含めた擬似家族的な紐帯でつながっていて、一種カルト化しているのだった。新しい女性従業員の加入が原因で森男が水を作れなくなってしまったことから、この集団は崩壊へと向かっていく……。

サンプルの作品は周囲と隔絶した閉鎖的な世界を描くことが特徴だが、この世界は幾分開放的だ。階段一つで外の世界に出ていけるし、外から入ってくることもできる。でも外から入ってくる客や取引先の男などが中の人以上にエキセントリックなのがおもしろい。

スタッフのひとりが自己反省や総括を求められ糾弾したあと100%の承認を与えて忠誠心を高める手法、イニシエーションと名づけられた性的な儀式、などカルト集団の気持ち悪さを克明に描いているんだけど、最後ほとんど崩壊したこの集団に希望のようなものが示されて、そのぽっかり浮いた奇妙な明るさがとても心地よかった。その希望はこの場所に出口が用意されているからこその希望のような気がした。

取引先のいやったらしい男を演じた山内健司さんがすごかった。本気できらいになりそうだった。

作・演出:松井周/こまばアゴラ劇場/自由席2800円/2013-01-26 18:00/★★★

出演:古舘寛治、奥田洋平、古屋隆太、辻美奈子、野津あおい、小林亮子、富田真喜、折原アキラ、たむらみずほ、森岡望、山内健司