青年団『アンドロイド版 三人姉妹』

ぼく的にも初のアンドロイド演劇だが、これまでのアンドロイド演劇は30分弱で通常の演劇と同じ時間くらいの尺ははじめてということだし、ちょうど今日が初日というはじめてづくしだった。そのおかげで平田オリザさんと、アンドロイドの技術を提供した石黒浩さんのアフタートークをきくことができたが、これが本編と負けず劣らずおもしろかった。アンドロイドやロボットに演技させるのには並々ならぬ苦労があるということだし、舞台に登場した2体のアンドロイドとロボットは科学研究費の支援で作られたもので、平田オリザさんの所有という形になっているらしいとか、いろいろ興味深い話がきけた。

さて、本編もよかった。原作がチェーホフになっているが、設定の一部を借りたくらいで、ほとんどオリジナル作品だ。舞台は近未来の日本。産業が空洞化し衰退している様子がうかがえる。地方都市の、馬が見える高台にあるこぎれいな家の中で物語は展開する。ロボット研究者であった亡き父親の教え子が海外に赴任するということで、送別会が開かれる。集まるのは、今もその家に住む長女、末っ子の長男、近所に暮らす次女夫婦、父の弟子筋の大学教授夫妻、たまたま訪れた長男の友人女性。三女は十年以上前に亡くなったことになっていてアンドロイドが代わりをつとめている。そして買い物を含めた家事全般をこなすロボット、ムラオカ。

ムラオカがなんだかかいがいしくて人間味を感じてしまった。アフタートークの質問タイムで観客のひとりがいっていたけど、周囲に懸命にあわせようとしている発達障害の人を思わせるそうだ。それより人間らしい外見のアンドロイドの三女は、空気が読めないキャラで、むしろ感情移入がしにくいのだった。そして、このロボットやアンドロイドたちに接する人間の態度がおもしろい。対面では人間として扱い、その場にいないとモノとして扱うのだ。

アンドロイドは興味深かったが、物語としても複雑な味の感じられるものだった。なぜ演劇をみているのかという問に対してうまく答えを言語化できなかったが、これをみて料理の比喩で答えられるような気がした。単に甘い味とか塩辛い味でなく、微妙に混じり合った複雑な風味を味わいたくて演劇をみているのだ。その配合が絶妙に調和したときの体験はほかにかえられない。

原作:アントン・チェーホフ、作・演出:平田オリザ、テクニカルアドバイザー:石黒浩/吉祥寺シアター/自由席4000円/2012-10-20 19:30/★★★★

出演:松田弘子、能島瑞穂、井上三奈子、ジェミノイドF、大竹直、山内健司、河村竜也、石橋亜希子、大塚洋、堀夏子、ロボピーR3