こどもとおとなのためのお芝居『暗いところからやってくる』
母と姉と共に祖母が住んでいた古い家に移り住むことになった中学生の輝夫。家がきしむ音や、大きなクモ、何かいる気配におびえる輝夫が、夜一人でマンガを読んでいると姿は見えないのにすぐそばで男の声が聞こえる。それは暗闇にひそみ人間を観察する使命をおびた種族の一人で、いずれ人間のすむ世界にいくつもりだといい、自分と話したことは誰にも言ってはいけないという……。
古い家に住む怖さがとてもリアルに描かれていて、ぼくも昔住んでいた家のことを思い出した。そうそう、こんな感じにリアルな存在(虫たち)とイマジナリーに非存在に囲まれながら暮らしていたなあ、と。
おとなとこども両方が楽しめる作品というコンセプトで、実際、いつもの観劇に比べると、こどもの数が多かった。でも、こどもに配慮しすぎて陳腐になってしまうことはまったくなかった。彼ら暗闇にすむ種族の正体がなんなのかというのも明示的に語られない。こどもたちはきっとわからなかっただろう。一緒にきたおとながある程度虚構作品をみることに慣れていればきっと教えてくれたと思う。
ネタバレで書いてしまうと、それは幽霊とちょうど真逆の存在。幽霊が過去の死者の変化したものだとすれば、彼らは未来の……。そういう存在を登場させたということだけでも、とても清々しい前向きさを感じた。ほんとうの意味で(年齢を問わず)こどもたちが見るにふさわしい芝居だったと思う。
作:前川知大、演出:小川絵梨子/神奈川芸術劇場中ホール/自由席3000円/2012-08-04 13:30/★★★
出演:浜田信也、盛隆二、岩本幸子、大窪人衛、伊勢佳世、木下三枝子