イキウメ『ミッション』

ミッション

初のイキウメ。

将来を嘱望される若きエリート会社員清巳は自宅の裏山から落ちてきた石に頭を直撃されしばらく会社を休み、その間に仕事からはずされてしまう。そんな中、清巳の一家と長いこと疎遠で、しばらくぶりに見舞いに訪れた叔父怜治の生き方に惹かれ、彼のもとに足繁く通うようになる。怜治は専業主夫で、ボランティアで引きこもりの若者たちに何やら教えている。世界からの呼びかけを聞き取り、そこから読み取った衝動のままに行動すれば、世界の調和が保たれるというのだ。怜治自身子供の頃からそれを信じていていまだに実践している。清巳は仕事をやめることを決意し、怜治の存在が清巳の一家に徐々に動揺させていくさなか、彼の教え子のひとりが事件を起こす。そして町にはこれまで例のない長い雨が降り続く……。

ウェルメイドな家庭劇で、演出もオーソドックス。でも、そのウェルメイドさは鼻につかないし、丁寧な作りは好感をもてた。そして、玲治の考え方や生き方の美点を一方的にあげつらうのではなく、それと相反する視点をちゃんと取り入れているのがよかった。地道な生活者である玲治の兄(清己の父)の批判に対し玲治はぐうの音も出ない。結果、見終わったあと、いろいろ考えたくなる芝居に仕上がっていた。

(怜治の考え方は耳あたりはいいけど、半近代そのものの呪術的思考じゃないか。でも人間は呪術的思考から逃れられない。近代という装置が、人間の思考や行動をせばめ窮屈にしている面もある。具体的には不確定で確率でしか表現できない領域が手つかずのまま残され、社会の複雑化に伴い一部では増大して、それが人間を圧迫している。呪術はその領域を人間が操作可能(と思えるように)にしてくれる道具の役割を果たしている……)などなどいろいろ考えた。

作:前川知大、演出:小川絵梨子/シアタートラム/指定席4200円/2012-05-13 18:00/★★

出演:渡邊亮、浜田信也、井上裕朗、岩本幸子、安井順平。太田緑ロランス、伊勢佳世、盛隆二、森下創、大窪人衛、加茂杏子