演劇集団円『未だ定まらず』

演劇集団円『未だ定まらず』

作・演出:前田司郎/ステージ円/指定席4500円/2011-06-25 18:00/★★★★

出演:野村昇史、福井裕子、磯西真喜、田原正治、入江純、秦由香里、吉澤宙彦、玉置祐也、千葉三春、戎哲史

水商売の世界で名をはせた妻亡き後、自ら妻の源氏名(シャルル)を継ぎ、女装して生きる男。そして彼の世話をしながら一緒に暮らす、かつて彼の妻のファンだった男静夫。この二人のキャラクターと関係性がすごい。

まず、彼らはゲイではなく共に異性愛者だ。そして、お互いのことをまったく愛してはいない。ただそれぞれが抱える欲望を現実化してくれるパートナーとしてお互いをみているだけなのだ。シャルルは、亡き妻へのフェティッシュな愛情を自ら彼女になりきることで蘇らそうとしているが、そのためにはその姿をみてくれる観客静夫の存在が不可欠だ。静夫の方は、さらに込みいっている。オリジナルのシャルルをSMの女王様的に崇拝してきた彼が、シャルルになりきろうとする彼女の夫の中に、彼女の面影をみとめて、その部分を崇拝し続けようとしている。

彼ら(特に静夫)の、高度に発達し、ねじれた欲望は、不可解さや憐れみをこえて、何か崇高なものをみたときのような畏敬の念を感じさせるほどだった。もし、彼らの欲望がねじれもせずまっすぐなままだったら、それは決して充たされなかっただろう。だが、ねじれることによって、充足する可能性を得たのだ。静夫はそのためなら何でもする。家族を捨て、策略を弄し、労苦をいとわない。ある意味、大義に殉じる殉教者の姿をみるようだった。

脱力系の演出とシュールな世界観の前田司郎と、基礎がしっかりして堅めの円とのコラボレーションが、どんなふうになるか楽しみにしていたけど、とてもよかったと思う。特に静夫を演じた田原正治さんが、静かな物腰の中にかいまみえる狂気を演じていて、とてもよかった。