チェルフィッチュ『ゾウガメのソニックライフ』
作・演出:岡田利規/神奈川芸術劇場/自由席3500円/2011-02-11 18:00/★★★
出演:山縣太一、松村翔子、武田力、足立智充、佐々木幸子
趣味が合わない男女カップル。女はどこでもいいから旅行に行きたいと思っていて、男は日常生活を大事にしたいと思っている。それは表層的な趣味だけではなく、満ち足りた生とは何かという価値判断をめぐる問題でもある。二人は自分の考えをことさら言葉にして伝えようとはしないし、できないと思ってる。だから、互いの考え方を知らないままだ。男は夢を見る。彼女が亡くなった後、せつなさを抱えながら、一人生きている夢だ。男はその生を充実していると考える。それは悪夢ではなくいい夢なのだ。
恋人同士であっても、ひとりひとりの価値判断の中に分断されているようにみえる現代の生。でも、今回の作品では、それはそうみえているだけで、ある程度普遍的で互いに了解可能なものだということをみせてくれた気がした。せつないという感情を身体的な感覚に置き換えて表現するシーンがすばらしい。
身体というものの特異性を強調する振り付けはおとなしめで、空間の中を身体が移動してできあがる身体の間、身体と舞台装置の間の配置を強調する演出だった。言葉がなくて人の一見無作為な動きだけで進行する時間も長くて、従来の「動」から「静」に一気にシフトしたように感じた。
女が空想の中で、地下鉄にどこまでも乗っていって、自分を讃えるパーティーに参加するエピソードはふつうの演劇的ではあるけど、だからこそとてもおもしろかった。
そして、ラスト。観客と舞台を隔てる壁が妙な形で意識化され、それがこれまで舞台上にあったいくつかの見えない壁、個人と個人の間の壁、現実と夢の間の壁、と同型のものであることが示される。よくできた構成だ。
アフタートークのゲスト坂口恭平さんのエネルギーに圧倒された。あと、できたばかりの神奈川芸術劇場は立地条件といい内装といい、いい劇場だった。開演時刻ぎりぎりになって、場所がわからなくて迷ったり、チケットを落として来た道を戻ったり、いろいろ大変だったが。