『ピローマン』

the pillowman

とある独裁国家の警察の取調室が舞台。売れないショートストーリーを書きためているカトゥリアンはトゥポルスキ、アリエルという二人の刑事の取り調べを受けている。最初カフカ『審判』のような不条理な告発かと思うが、カトゥリアンの書く陰惨な物語をまねた子どもの連続殺人事件が起きていることがわかり、別室でカトゥリアンの兄ミハエルも取調べされており兄弟二人でやったと自供したと聞かさせる。カトゥリアンは物語の執筆を促されつつ、兄の存在を知らないまま毎夜拷問されている声を聞かされる。それで生み出される陰惨な物語が両親の実験の成果なのだった。そのことに気づいたカトゥリアンは14歳の時に両親を殺害したのだった。ミハエルは虐待が理由で知的機能に遅滞がある。

舞台ではカトゥリアンの作品のいくつかが物語られる。子どもがひどい目に陰惨なものが多いが、『ピローマン』と『緑の子豚』という作品はちょっとトーンが変わっていて重要な役割をもつ。

取調べという名の拷問の後、カトゥリアンは留置所でミハエルと再会する、ミハエルは無邪気にカトゥリアンの物語を実際に確認するため自分が子どもたちを殺したと告白する。絶望したカトゥリアンはミハエルを殺し、罪を認めることと引き換えに自分の作品だけは残そうとする。カトゥリアンは非道な両親を殺したが、彼らが遺した物語の呪縛はもう彼そのものになっていて、誰の目に触れなくても形だけは残したかったのだろうか。

ここで第2幕第1場が終わった。中途半端な位置だが、今回の上演ではここで休憩が入る。もう起こるべき悲劇はすべて起こってしまっていてこの後に何を続ける必要があるのかという感じだったが、実はこの先がすごかった。ほぼ唯一のカラフルで祝祭的なシーンに虚をつかれた後、ラストでは最後に紡がれた物語。そこには再びピローマンが登場する。その皮肉は完成するかと思わせるが、すんでのところで小さな小さなハッピーエンディングを向かえる。それをハッピーエンディングと呼んでいいのかどうかは劇が終わった後、問いとして残り続ける。

作:マーティン・マクドナー、飜訳・演出:小川絵梨子/新国立劇場小劇場/A席7700円/2024-10-19 18:00/★★★★

出演:成河、木村了、斉藤直樹、松田慎也、大滝寛、那須佐代子、石井輝