KAATカナガワ・ツアー・プロジェクト『箱根山の美女と野獣/三浦半島の人魚姫』

箱根山の美女と野獣/三浦半島の人魚姫

前作は見てないが、KAATと演劇の認知向上のため新作をひつさげて神奈川県下の劇場をツアーする企画の第二弾。『人魚姫』、『美女と野獣』という有名な物語を換骨奪胎し、神奈川県各地を舞台に移し替えた1時間ずつの作品に仕上げている。

『三浦半島の人魚姫』は不定期に人魚が姿をあらわすという設定。その日は人魚の日と呼ばれ口コミで広がっていく。町田の近くの相模原市内でレストランを経営する瑠璃はいてもたってもいられなくなり、人魚があらわれそうな場所を探してまず相模川、次いで海へ向かって県内を歩いていく。

『箱根山の美女と野獣』は小田原で工務店を経営する父親と三人娘の元へ巨大なヘビの使いがあらわれ妻として娘一人を要求するが、次女カベコが志願し、箱根神山の形成前に存在したまぼろしの面影の山にある屋敷へと連れていかれる。ヘビは見目麗しい貴公子に姿を変え天稚彦と名乗る。彼は豪華な食事や衣服をカベコに与えようとするが彼女は見向きもせず慎ましく堅実な生活をしようとする。

それぞれ時間も短いしプロットもシンプルだけど、演出、演技、音楽、ダンス、どれも手を抜いてるものはひとつもない。ミニマルな舞台装置の中で言葉と体の動きだけで観客の想像力に訴えかけていく、演劇の醍醐味を味わわせてくれる作品だった。女性二人は本職がダンサーで本格的な演劇は今回が初めてということだが、まったくそうとは思えなかった。バイオリンのおじさんの片岡正二郎さん(どこかで見たと思ったらドラマ『エルピス』で死刑囚の役の人)はまわりを明るくする雰囲気がすばらしいしなんといっても歌がうまい。菅原英二さんの女性役を久々に見たが、相変わらず女性の健気さを演じさせたらほんもの以上だ。

長塚圭史さんによるアフタートークでは、商業的な公演には補助がつくのに、地道に演劇という文化を伝えていこうとする劇場の予算が年々縮小されていくことへの危惧が表明されていた。今回の公演もそういう風潮に抗って新たな観客を獲得する戦略のひとつなのだ。演劇の衰退は体感でひしひしと感じているので、応援したいと思った。

劇場の逗子文化プラザはすばらしい。物語に逗子は登場しないのだけど、周囲を含めた劇場の佇まいが舞台に確実に反映する。わざわざ逗子でみた甲斐があった。

作・演出:長塚圭史、音楽:阿部海太郎、振付:柿崎麻莉子/逗子文化プラザなぎさホール/自由席3800円/2024-02-28 18:30/★★★

出演:菅原永二、柿崎麻莉子、四戸由香、長塚圭史、片岡正二郎、トウヤマタケオ