コンプソンズ『愛について語るときは静かにしてくれ』

愛について語るときは静かにしてくれ

SNSでみかけて急遽みることにした。聞き覚えのある劇団だと思ったのは道理で、2度目のコンプソンズだった。

これぞ小劇場というテンション高めのノリと演出は相変わらず不慣れで、加えて今回気づいたのはこれが演劇であることへの自己言及的なセリフの多さだ。しかし、そういう個人的な違和感とは違うところに連れていってくれる作品だった。

舞台は天才的ゲーマーである小春が住むアパートの一室。つきあいが長い小春とその彼氏スズの恋愛模様が主軸の群像劇(小春の弟大介、小春とすずを引き合わせた古くからの友人マイ、隣人の漫画家カノン……)という様相ではじまる。マイは実はどこかの組織のエージェントだったり、小春と弟には血のつながりがなく10年前に知り合ったとか、小春にだけ見える謎のサキュバスとか、一見荒唐無稽に想えるシチュエーションだが、戦争というキーワードで一気にリアリティーを取り戻す(サキュバス以外は)。10年前なら戦争はフィクションの中の絵空事だったが、今やそれ以外の選択肢が少しずつせばまりつつある。悪い奴らが戦争を起こそうとしているならそいつらを倒すことに希望を持てるが、安全保障というゲームの中でそれなりに合理的な手を打った連鎖の先が戦争に向かっているのだ。この作品では今から数年後に起きる戦争が30年間続いているという設定で、その30年先の未来が舞台。小春は単なるゲーマーではなく、ドローンの操縦士で、リアルな戦闘に参加しているのだ。十分ありえそうなことに思えた。

小春の最後の戦闘シーンは圧巻だった。この世界がディストピアすぎて反出生主義者になってしまった(未来の)少年をこの世に生まれさせるため、ゲームという欺瞞を捨てて戦争という現実に向き合う。少年はおそらく未来のメタファーなのだ。

初見だけと辻凪子 という役者のすごさを感じられた気がする。

作・演出:金子鈴幸/OFF・OFFシアター/自由席3800円/2023-08-11 19:00/★★★

出演:辻凪子、畦田ひとみ、てっぺい右利き、細井じゅん、大宮二郎、宝保里実、星野花菜里、金子鈴幸