岡崎藝術座『バルパライソの長い坂をくだる話』
全編アルゼンチン出身(1人はブラジル。セリフが少なかったのはスペイン語が母語ではないせいかもしれない)の俳優たちのスペイン語による公演で英語と日本語の字幕がついた。
父の遺骨を海に散骨に来た息子と母。母は押し黙り、息子が語りかける言葉は、今ここから離れ時空を飛び回る。パラグアイの皆既日食、農場で出会った日本からの移民の人の移民船で経験した葬儀の記憶、チリのバラパライソの街並み、小笠原で出会ったアメリカ人バーテンダー。
そこに絡んでくるのが散骨を補助する業者二人。彼らは狂言回しであり、二人の関係性がほぼ唯一のリアルタイムに展開するストーリーだ。と同時に、時空をこえた回想の一部を肩代わりする。
スペイン語なんだけど言葉の美しさと力は伝わってくる。基本、作者が実際に体験したり聞いたエピソードがベースになっていると思われるが、言葉の力で南米のマジックリアリズム的な世界に変容していた。
一番心に残ったのは、塵に向かう長距離バスで隣り合わせたペルー人の男性のエピソード。観光客に楽園があると誘いかけて奴隷にして売り飛ばす組織がある。自分もそのメンバーだという、でもそれは嘘じゃなく、奴隷になればなにも選択したり未来について思い悩む必要がなくなるのでそれこそがまさに楽園なのだ、と言う。
ちなみにバルパライソの綴りは Valparaíso だけど、スペイン語では v も b の音で発音するので、ヴァルパライソと書いてしまうとはずかしい。
作・演出:神里雄大/ゲーテ・インスティトゥート東京 東京ドイツ文化センター/自由席4000円/2019-08-25 14:00/★★★
出演:Maritin Tchira, Martin Piroyansky, Marina Sarmiento, Eduardo Fukushima