青年団『日本文学盛衰史』

青年団2年ぶりの新作とのこと。原作は未読なので(近日中に読むつもり)、以下の感想には今回の脚色と上演に対するものと、原作に対するものがシームレスに入り交じっているはず。

4場構成で各場は以下にリストアップする著名文士の通夜または葬儀のふるまいの席だ。

  • 北村透谷 - 1894年(明治27年)5月
  • 正岡子規 - 1902年(明治35年)9月
  • 二葉亭四迷 - 1909年(明治42年)6月
  • 夏目漱石 - 1916年(大正5年)12月

文士たちはそれぞれ、登場人物の内面の告白が可能な言葉を生み出し、国を変えられる作品を生み出すため、身を削るように創作に励んでいる。それは当初国の発展と軌を一にするものだった。しかし、文学はその労苦に値するものなのかという疑問が常に彼らのうちにはある。やがて国は彼らの一部の弾圧をはじめ袂を分かっていくことになる。

夏目漱石がこの国の破滅を予言するシーンがあるが、それが正しかったことは、この作品の範囲からすると未来である戦後の無頼派と呼ばれる作家たち(織田作之助、太宰治、坂口安吾)によって語られる。彼らは、漱石の葬儀に臨席する作家たちの未来を告げ、警告し断罪する。そして文学そのものの未来も語られる(その中には2018年のいささか悲観的な現状も含まれる)。希望なのか絶望なのかどちらにもどれる未来だ。

田山花袋が永井荷風に気が合いそうですねと呼びかけたり、知っている人はにやにやしそうな目配せがあちこちにちりばめられている。あと、作家それぞれの年齢の上下や活躍時期の違いがちょっとわかるようになった。今までは戦前の作家というざっくりしたくくりしかもってなかった。

元の原作がそうなんだろうけど、とても自由でなんでもありな舞台だった。LINEやTwitterが登場したり、現代の時事ネタも頻発。某劇団のパロディーには度肝を抜かれた。ふだんの青年団は引き算だけど、今回は足し算だ。観劇後に、凝縮され詰め込まれたものをひもとくのが楽しい。

文士たちは志は高かったけど、いろいろだめな人たちで、失敗も数多く犯してきた。ひとつ思ったのは、彼らを、しっかり断罪してあげたほうがいいということだ。どちらにとっても、忘却するのが一番の不幸だ。

原作:高橋源一郎、作・演出:平田オリザ/吉祥寺シアター/自由席4000円/2018-06-23 18:00/★★★

出演:山内健司、松田弘子、志賀廣太郎、永井秀樹、小林智、兵藤公美、島田曜蔵、能島瑞穂、大塚洋、鈴木智香子、田原礼子、大竹直、村井まどか、山本雅幸、河村竜也、長野海、堀夏子、村田牧子、木引優子、小瀧万梨子、富田真喜、緑川史絵、佐藤滋、藤松祥子