KAAT×地点『忘れる日本人』
これまで見た地点はほぼ海外戯曲か海外小説をベースにした作品だったが、今回は日本の新進作家の新作の上演だ。地点にかかるとなんでも切り刻んでミンチにされて元の作品の形はかなりとらえにくくなるものなので、ひょっとして戯曲ではストレートな会話劇だったりするのかと思ったが、どうやら舞台でみた以上に長大でとらえどころがなく観念的な台詞が飛び交う作品のようだ。頭の中を整理するため、戯曲が売っているなら買って帰ろうと思っていたが、地点が発行している雑誌に現在連載中で次の号で完結するとの由。舞台化したのはその抜粋らしい。
ロープで長方形に区切られた領域の真ん中に木組がありその上に木造船がある。登場人物は最初船の下に隠れているがひとりひとり這い出してくる。7人の日の丸をつけた「日本人」たちだ。彼らを囲むロープは実は見えない壁(マジックミラー?)になっていて彼らはそこから出ることができない(なぜかタイミングによっては出ることもできてそうすると出た人はしばらくトランス状態になる)。彼らの足をくねくねさせながら左右にひょこひょこする動きがかわいくておもしろい。「ワッショイ!」など間投詞的に頻繁に挿入される言葉がリズムをうんでまるでラップをきいているみたいな感じがしてくる。
台詞は断片的で全体像はよくわからないのだが、いつもの作品よりは会話としてつながっている気がする。父、母、娘の三人家族、国境、壁、船での漂流、絶望と希望……。
途中観客参加で船を神輿のようにかついで舞台を動き回るというパートがあり、その前後のコミカルな展開もあって、ひとしきり盛り上がった(ぼく自身は観客参加は苦手だが今回積極的な観客が多くてすぐにメンバーが決まった)。これまでみた地点の舞台の中では一番笑いが多かったのではなかろうか。船は何かのメタファーのように右へ右へと旋回し続ける。
よくも悪くも地点では戯曲は舞台上のパフォーマンスを構成する(もっとも重要ではあるけど)ひとつの材料でしかない。それだからこそこの戯曲を舞台化できたのかもしれない。
作:松原俊太郎、演出:三浦基/神奈川芸術劇場中スタジオ/自由席3500円/2017-04-21 19:30/★★★
出演:安部聡子、石田大、小河原康二、窪田史恵、河野早紀、小林洋平、田中祐気