テアトル・ド・アナール『従軍中の若き哲学者ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインがブルシーロフ構成の夜に弾丸の雨降り注ぐ哨戒塔の上で辿り着いた最後の一行“――およそ語り得ることについては明晰に語られ得る/しかし語りえぬことについて人は沈黙せねばならない”という言葉により何を殺し何を生きようと祈ったのか?という語りえずただ示されるのみの事実にまつわる物語』
タイトルが長い!
何より哲学者、しかもその人生だけでなく哲学にもスポットライトをあてる演劇を作るという試みが素晴らしい。「およそ語り得ることについては明晰に語られ得る/しかし語りえぬことについて人は沈黙せねばならない」という彼の主著『論理哲学論考』の末尾のあまりにも有名な言葉。結構誤解含みで解釈されることが多い言葉だけど、この作品の中でその誕生の瞬間に立会って、意味を解きほぐそうとしている。語り得ないものについてはウィトゲンシュタイン独特の「独我論」を持ち出すべきなんだろうけどここでは神を使っている。それでも間違いというわけじゃないしわかりやすさを犠牲にしなくてかえってよかった気がする。神の象徴として携帯用のウイスキー瓶がテーブルに置かれた時背筋がぞくっとした。
(ウィトゲンシュタインは真理を極めたと思い込み、一旦哲学から身を引いて小学校の教師をしたりするんだけど、その後この「語りえぬことについて人は沈黙せねばならない」の立場を捨てて「言語ゲーム」など新たな概念に取り組むことになる。次はこの教師時代のエピソードが舞台化されたりして。生徒に度々体罰を加え、結局それが原因で辞職することになったらしい。)
俳優の演技は普段観る芝居からすると過剰に感じたけど、実際ハイテンションな西洋人の役を日本の俳優が演じる場合他にどう演じればいいかは正直よくわからない。隊長役の榊原毅さんは先日のリクウズルームでも感じたけど妙な説得力があってとてもよかった。
あと、暗闇の中で声が飛び交う演出が戦場の切迫感を迫真的に表していた。
作・演出:谷賢一/SPACE雑遊/自由席3750円/2016-03-05 18:30/★★
出演:古河耕史、榊原毅、大原研二、小沢道成、本折智史