ナイロン100℃『シャープさんフラットさん』(ホワイトチーム)

ナイロン100℃『シャープさんフラットさん』

作、演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ/本多劇場/指定席6800円/2008-10-19 19:00/★★★

出演:三宅弘城、松永玲子、村岡希美、廣川三憲、新谷真弓、安澤千草、藤田秀世、吉増裕士、皆戸麻衣、杉山薫、眼鏡太郎、大倉孝二、佐藤江梨子、清水宏、六角慎司、河原雅彦

ナイロン100℃15周年記念の作品。その15年のうち10年をぼくが観客として共有しているということに驚いた。

さて劇団員全員を出演させてあげようという親心かどうかはわからないが、今回はキャストを2チームに分けたダブルキャスト公演で、どちらかといえばブラックチームの方が一般受けのするキャストだったし個人的にもみたい俳優は多かったのだが、へそ曲がりのぼくはあえてホワイトチームを選んだ。出演者だけでなく台本の細部や結末も違うらしい。

15周年ということで、ナイロン100℃やケラリーノ・サンドロヴィッチ(以降ケラさんと表記)の来歴を彷彿とさせるような、とある劇団の主催にして劇作家辻煙が主人公。90年代のバブル崩壊前夜、彼は世間の無理解に嫌気がさして、あるサナトリウムとは名ばかりの高級保養所にもぐりこみ、劇団や恋人から逃避している。サナトリウムで生活する人々、働く人々、訪れる人々のそれぞれの人生と、辻煙の脳裏に浮かぶはちゃめちゃな空想が交錯する。

そして、バブル崩壊とともにサナトリウムの閉鎖が近づき、逃避を続けてきた主人公が前向きに人生を歩む……という安易な結末を決して選ばないのがケラさんの面目躍如なところで、クライマックスは、「シャープさんとフラットさん」というこの作品の名前の由来が明らかになるところだ。それは劇団員の一人が小学生の時に書いた作文のタイトルで、そこでは、世間の感覚とは半音ずれたところにいるということの自覚というか、開き直りがうたいあげられている。

その半音のずれをあるがままに受けとめていこうという穏やかな決意が、たまたまめぐりあった理解者赤坂弥生ともりあがる最後のシーンにつながってゆく。それは世間とずれた自分の自己肯定では決してなく、ホワイトチームの方では(ブラックの方ではまたちがうらしい)、辻煙が、たまたま見てしまった痛ましい惨劇から目を背けて再び一時的な盛り上がりの中に逃げ込む姿を通して、むしろ自己批判としてつきつけられる。そういう意味で、ケラさんの個人的な葛藤がそのまま舞台の上にあげられたようにも感じられたのだった。

楽日だったので、ケラさんの挨拶を含め、ホワイト、ブラック総動員のカーテンコールがみられてよかった。ちなみにいつもよりネタバレが多めなのも楽日だったからだ。