青年団『御前会議』
作・演出:平田オリザ/駒場アゴラ劇場/自3500円/2005-03-20 19:30/★★★
出演:鈴木智香子、太田宏、申瑞季、兵藤久美、島田曜蔵、奥田洋平、井上三奈子、山田
笑いが前面に出た芝居。昨日の『気ままにミッドナイト・タイフーン』より笑えた。
ごく普通の市民たちが会議のためにひとつの部屋に集まる。離婚寸前の夫婦、失業中のOL、キャリアウーマン風の有能そうな女性、つまらないギャグを大きな声でいう男、太った若い男。遅れてやってきた若い女性は夫婦の夫の方とできている(つまり彼女が不和の原因)。異色なのが、中央に陣取っている佐藤という人物、というより人形。頭部はシャツをまるめたようなものにビニール袋をかぶせただけの雑な作りだ。みんな彼にごくふつうに話しかけているが、返事を期待しているわけではなく、問いかけの後妙な間があいてしまうのがおかしい。
議題は、駐輪場を設置するかどうかにはじまり、賞味期限がすぎたあとの食品は何日後まで食べてよいか、と続くが結局あやふやなまま次回まで保留という形になってしまう。このあたり日本の組織における意志決定がうまく戯画化されている。彼らがはじめて決定できたのは、人間は何のために生きるかという問題と、世界とは何かという問題だ。その結論は「わからない」。これは単なるジョークのように思えるけど、実はこのあと出てくるテーマにつながっている。
単純にわからないということと、わからないといいきってしまうことはちがう。後者は理性を限界づけて近代を否定する立場につながる。たぶんこれは戦中にもてはやされた「近代の超克」という思潮をさしているんだと思う。
このあと議題をはなれて、この芝居のひとつのテーマといえる、現在おこなわれている「戦争」について侃々諤々の議論が行われる。たぶんその戦争とは日中戦争のことで、海軍が戦線の拡大に反対していたり、日本軍が大陸でおこなった残虐行為が報道されることもあったのに、なぜずるずると太平洋戦争に引きずり込まれていったかが、短いセリフ(と玩具の拳銃の弾)のやりとりの中で的確に説明されていた。単純化していうとそれは人間の情けなさということになると思うのだけど、この情けなさは宇宙人の襲来に関する議論の中でさらに徹底的に戯画化される。
人形の佐藤はいうまでもなく天皇の立場の戯画化だ。実は五反田団という劇団の団員で山田という名前までついているらしい。終始無言だがとても存在感がある名演技だった。