decade
ぼくがこのサイトの前身をはじめたのは、ちょうど10年前、世界は結局終わらなくて、実はまだはじまってもないような気がしてきたころだった[このサイトにはそれ以前の日付のコンテンツも含まれているが、それは後から書いたもの。基本的に、日付は、文章を書いたり公開した時点ではなく、テーマとなるイベントが起きた時点を採用している。]。たまたまもらえた一週間の休みに旅行にもいかず、せめて文章でも書いて公開しようかと思ったのが始まりだ。最初は、初心者にありがちな全能感でいろいろ書き散らしたが、やがて身の丈相応に、散歩、読書、観劇という趣味の活動をロギングするという形にほぼシュリンクして今にいたっている。
書くことが前提になっているので、何をしても、体験する自分と、それを表現する自分が二人ひと組で、いわばひとり染之助・染太郎状態になってしまっている。この二人の共同作業で、ようやくひとつの体験が完結するのだ。つまり、ただ歩いただけではまだ散歩したとはいえず、それを適切な表現で文章にまとめて、ようやく目的地についたような気分になる。
さらに、このうち表現者としてのぼくはかなり分裂気味で、一方で無味乾燥に記録を残そうとしつつ、時折いたずら心を起こして、妙にこっていたり場違いだったりする表現を使おうとする。おそらくほとんどの人は面食らってしまうのではないだろうか。散歩のログについていえば、ほとんど写真がなくて、街とか店の話題より個人的な感傷ばかり書いてある。検索してたどりついた人の落胆する顔が目に浮かぶ。とはいえ、ぼくの中のリアルとイマジナリーのモチベーションが均衡した結果こういう形になっているので、変えようとして変えられるものでもないのだ。
さて10年。特に短くもなく長くもなく、まさ10年ぴったりの長さに感じられるような10年だった。その間それなりに変化を被ってはいるが、リアルとイマジナリーのバランスがたまたま同じところで保たれているため、書いている内容はあまり変わっていないようにみえる。検索してやってくる無垢な利用者には迷惑な話だが、たぶん、しばらくはまだ同じようなことを書いているはずだ。だが、もしバランスがイマジナリー側に振れれば、もっととんでもないことを書き出すだろうし、万一リアルが充実すれば書くことそのものをやめてしまうかもしれない。神のみぞ知る。