PC音質向上キャンペーン
キャンペーンは突然はじまった。
PCで聴く音楽なんて音源は圧縮形式のファイルだし別に音質はどうでもいいやと思っていたのだが、いまやピュアオーディオのコンポでは音楽を聴かなくなっている現状があり、逆にもとがひどいんだから少しの努力でも目に見えるような(というより耳に聞こえるような)効果が得られるのではないかと軽く考えたことが、あれよあれよという間に自分の中で盛り上がっていた。
こういうときに歯止めがきかないのが昔からの悪い癖で、なぜかといえばリアルな高音質ではなく、表層的に、こうしたんだから音がよくなっているはずという、「はず」の部分だけを求めてしまうからだと思う。「はず」か「はず」じゃないかを判断するのは耳ではなく美学のようなものなので、それを満たすような調和がもたらされるか、あるいはあきらめがやってくるまでは収拾がつかなくなってしまうのだ。以前、それで立て続けに二枚PCのマザーボードを買い換えたことがあった。
今回はBOSEのMicro Music Monitor(M3)という超小型のアクティブスピーカの購入からはじまった。握り拳大のサイズのくせに驚くような低音が出るのだ。その意外性とデジタルアンプ搭載というところにひかれてしまった。これそのものには満足したのだが、どんな音でもいい感じに聴かせてくれるスピーカではなくむしろあらを目立たせるタイプだったので、逆に不満を感じる部分がでてきた。
まず、スピーカーの低音で安っぽいベニアの机が共振するのが気になったので、インシュレータを自作することにした。自作といっても東急ハンズで円柱形に削り出された真鍮とハネナイトというふざけた名前の制震ゴムのシートを買ってきて貼り合わせただけだ。市販のインシュレータより少しだけ安くあげることができただけだが、自己満足が大きい。
次はオーディオインタフェースだ。今まではEDIROLブランドのUA-3というUSBデバイスを使っていた。一昔前の製品だが音は悪くないと思う。だが、USBデバイスの宿命といってもいいと思うが、微妙な相性問題があり、今のPCだと、負荷があがったときにプチプチノイズや音切れが発生してしまう。
お金がかかる対策を打つ前に今まで使っていなかったオンボードのサウンド機能を試してみることにした。IntelのHD Audio規格に対応したRealtek RLC880というチップだ。昔はオンボードのサウンドチップなんて一聴しただけで音の悪さがわかったものだが、これはヘッドフォンをつけるとさすがにサーというヒスノイズがわかるものの、スピーカーで聴く分にはそれほど悪くなかった。もちろん負荷をかけてもノイズはのらない。
それでしばらく様子をみようと思ったのだが、スタジオクオリティを超えるというふれこみのCreative Xmodをつい買ってしまった。圧縮音源の音質が向上するという。もちろんそれが単なるセールストークであることは理解していた。CreativeのPCI接続のサウンドカードにのっているX-Fiという音声処理技術がそのまま搭載されていて、リアルタイムに周波数を解析していろいろ複雑なことをしているらしいが、結果として出てくるのは低域と高域が持ち上げられた音だ。もちろん迫力は増すが、要はボリュームをあげているのとあまりかわらない。もっと地道に圧縮前のCDクオリティのサウンドの再現を目指してほしいところだが、それではふつうのPCのオーディオ環境では聞き分けられないだろう。購入者に満足感を与えるためには仕方のない商品戦略ともいえる。ぼくは、音質ではなく、高級感のある白くてコンパクトな筐体と中央のボリュームノブにひかれてしまった。「高音質化技術」なしでも、USBオーディオデバイスならばそれなりの音質だろうし、高負荷時のノイズもなくなるかもしれない。
ところが、結果として高負荷時ノイズはUA-3と同じくらいだった。つまりPC側に起因する問題なのだろう。しかもUSBにしてはヒスノイズが大きく、オンボードとあまりかわらない音質だった。無駄な買い物をしてしまった。
結局、今のところ、オンボードからデジタル信号を光出力し、UA-3に入れて、そこからスピーカーにつないでいる。つまりUA-3をDACとしてのみ使っているのだ。音質的にはもともとのUA-3のレベルだし、高負荷時のノイズもなくなった。一応めでたしめでたしだが、まだ何か物足りない。何が足りないかも、どうすればいいかもわかっているのだが、ちょっとそこまでするのはどうかという理性が働き、二の足を踏んでいる。
そうこうしているうちにiPod用のイヤフォン(松下製のちょっと高級なやつ)が断線していまい、左チャンネルが聞こえなくなってしまった。「音」にはまだまだ悩まされそうだ。