姜尚中『オリエンタリズムの彼方へ 近代文化批判』

オリエンタリズムの彼方へ―近代文化批判

近代西欧社会に登場した規律=訓練型の権力は「知」すなわち学問、文化と結びつくことによって大きな力を発揮した。西欧がオリエントを植民地として内部に組み込んでいく中で、観る側(=西欧)、観られる側(=オリエント)という非対称で差別的な視線から「オリエンタリズム」という支配する知としての言説が生まれてきた。第一章、第二章では、ウェーバー、フーコー、サイードの議論を援用しながらオリエンタリズムの正体を解き明かしてゆく。

第三章、第四章は日本におけるオリエンタリズム。日本はアジアの一角を占めながら、アジアとの差異を強調することで国内の文化的同一性を作り上げていった。植民地支配のための新渡戸稲造らによる植民政策学、西欧中心の世界史を東洋という枠組みで組み替えた白鳥庫吉による東洋史学などに、日本版オリエンタリズムをみてゆく。その呪縛は今もまだとけていない。

第五章では、全世界が資本主義のひとつのシステムの中に組み込まれてしまっているというウォーラーステインによる世界システム論を紹介する。世界システムの中では、周辺部に位置する集団の中から「人種」、「民族」、「エスニシティー」が生み出され(それらはもとから存在するのではなくシステムから生み出されるのだ)、中央からの排除や抑圧に反抗する形で「反システム運動」が発生する。ナショナリズムや宗教的原理主義も反システム運動にほかならない。

第六章では脱オリエンタリズムの思考を、亡命パレスチナ人であるサイードの「亡命状態」という生き方の中に求めてゆく。

9・11テロ事件を受けて書かれた大澤真幸『文明の内なる衝突』とテーマや言及されている対象に共通する部分が多いが、テロ以前に書かれた本書の方が、よりリアルに問題の本質をとらえているような気がする。

★★★