小島寛之『確率的発想法 数学を日常に生かす』
経済学や社会学への応用を目的に発展しつつある、確率に関する比較的あたらしい理論を平易に紹介することが本書のひとつのテーマだ。たとえば、スパムメールの検出にも使われているベーズ推定(実はとても古い理論だが)、確率すらわからないような不確実性を嫌う人間の性向を数理的にモデル化したキャパシティ理論、「誰もが知っている」だけでなく「誰もが知っていることを誰もが知っている」ことを定式化するコモン・ノレッジという概念など。
もうひとつのテーマがリベラリズムだ。たとえば、第7章はリベラリズムの大御所ロールズがとなえた「無知のヴェール」というタイトルになっていて、「もっとも不幸な人の利益を最大化する」という政策がすべての人の効用を最大化するモデルを示している。稲葉振一郎『リベラリズムの存在証明』という本があったが、本書ではある意味リベラリズムの数学的証明を試みているといっていいかもしれない。もちろん、本書はあくまで入門書なので、QEDというところまではいっていないが。
これに限らず不確実性のモデルは、ちょっと考えただけでもソフトウェアシステムのバグとか、いろいろなことに使えそうだ。
★★★