多和田葉子『犬婿入り』
中篇2つからなる作品集。
川上弘美と似ている。読み始めてすぐに思ったことがそれだ。夢の中のようにふわふわした現実感のなさ、身体感覚あふれる描写、じめっとしていて指向性のないエロティシズム。それはどちらかがどちらかの影響を受けたというより、いわば女性不条理文学というものの「系譜」を感じさせる。
『ペルソナ』はドイツで暮らす道子という日本女性が主人公(作者もドイツ在住でドイツ語での文学活動もおこなっている)。異国の環境の中で弟を含めまわりの日本人たちが「日本人」というアイデンティティに固着する中、その固着に違和感を感じる道子のアイデンティティがゆれだす。仮面(=ペルソナ)をつけることでアイデンティティを演じようとしても、それは無色透明の存在になることでしかない。
『犬婿入り』は子供向けの塾を営むみつこのもとに若い男が押しかけてきて住み着いてしまう。不思議な関係のはじまりと終わり。そしてその中から生まれるあらたな結びつき。
★★