十編からなる短編集。 作者自身を思わせる語り手の日本人女性が、歴史上の著名人の名前のついたベルリンの通りや場所を、散策する。基本的に、描写されるのは現代の日常風景なのだけど、その場所に積み重なった歴史や、名前のもととなった人物に関する幻想が混入する。後の方の作品になるに従って幻想の...
短編集だが、表題作の『献灯使』は全体の半分以上を占める中編。度重なる災害で衰退し鎖国している未来の日本が舞台。老人は元気で死ななくなり、子どもたちは虚弱になり、老人が子どもたちの介護をするようになっている。二人きりで暮らす、百歳を向かえた義郎とその曾孫無名が主人公。典型的なディス...
女性の書く純文学作品にはある共通な皮膚感覚のようなものを感じる。男性が論理性に頼って言葉をつなげていくのはちがって、彼女たちの言葉にリアリティーを与えていくのはそんな感覚のような気がする。 表題作の『ゴットハルト鉄道』は、アルプス(長野、山梨ではなくヨーロッパにあるほんもののアルプ...
中篇2つからなる作品集。 川上弘美と似ている。読み始めてすぐに思ったことがそれだ。夢の中のようにふわふわした現実感のなさ、身体感覚あふれる描写、じめっとしていて指向性のないエロティシズム。それはどちらかがどちらかの影響を受けたというより、いわば女性不条理文学というものの「系譜」を感...