保坂和志『草の上の朝食』

草の上の朝食 (中公文庫)

5月に読んだ『プレーンソング』の続編。夏が過ぎて秋になろうとしているけど四人の奇妙な共同生活は続いている。職について定期的な収入があるかないかは別として、彼らのうちだれも生産的なことをしていないしその必要も感じていない。それだからこそというべきか、彼らはまるでギリシアの哲人とか中国の道家のように見えてしまう。よう子は猫に餌を配りながら「視線」の意味について考察するし、島田は、聖書やニーチェを読んでいろいろなことを思いつく。

今回、主人公に恋人ができる。てっきり、そのことがこの幸福な共同生活の終わりにつながっていくのかなと思ったが、さにあらず、何と恋愛すらこの共同生活の中に飲み込まれてしまうのだ。何かと主人公が電話で相談をもちかけるゆみ子は、その不思議な力の源がよう子であると見抜いて、「よう子ちゃんは未来なのよ」「だって、よう子ちゃんはみんなの習慣を作っちゃってるんでしょ?未来っていうのは、新しい習慣を作ることの中にしかないと思わない?」「だから、未来ってのは現状を肯定することよ」といい、恋愛については「一種の神経症」だと切り捨てる。

ぼくも彼らのアパートに住みたくなってきた。

★★★