池澤夏樹『マリコ/マリキータ』

マリコ マリキータ

長編のあとには気楽な短編が読みたくなった。保守的にまず間違いなく楽しめるものということで、池澤夏樹の本を選んだ。

表題作は、最初グアム版『濹東綺譚かと思ったが、よく考えたら『ティファニーで朝食を』の方が近い。日本の名前「マリコ」と現地の人から呼ばれる名前「マリキータ」という二つの名前を持つ奔放で謎めいた女性と、彼女にひかれながらもどうしても前に踏み出すことができない人類学者。彼らの間をさえぎるものはいったい何なのだろう。

「梯子の森と滑空する兄」の「兄」は『スティルライフ』の佐々井と同じような能力を持っている。「アップリンク」は離島に気象観測機の点検にやってきた技師が「天気」そのものを直してしまう。「冒険」もやはり離島もので、夫が遠洋を航海中に、赤ん坊を連れて島を出る妻の話。

最後の「帰ってきた男」はSFでアーサー・C・クラークの『幼年期の終わり』と似たようなアイディア。

★★★