保坂和志『カフカ式練習帳』

カフカ式練習帳 (河出文庫)

数えてないけど300編前後の「断片」から構成された本。それぞれの断片は数行から長くても数ページ、内容は、夢、過去の記憶、思いつき、幻想小説の一部、パロディ、引用など多岐にわたり、一見ランダムに配置されている。あとがきによると、カフカがノートに書き遺した断片がおもしろくて、自分もそういうことをしたくなったそうだ。タイトルもそこからきている。

ふつうの小説以上に保坂和志の世界観、哲学にダイレクトに触れられていて興味深い。あとがきにそのものずばりで書かれているところがあるので引用しておこう。

人間はいつからなのか、永遠という言葉を考え出しそれを世界観の中心かそのあたりに置き、結果それに苦しめられるようになった。その苦しさから逃れるために、「一瞬の中に永遠がある」とか「瞬間と永遠は等価である」などと考えるようになったが、その理屈は中学生でも思いつく粗雑なものだ。一瞬は永遠の反対語ではなく補完語だ。そうでなく生きることを日々のピアノの練習にすること。日々を構成する物事をできるだけたくさんピアノの練習のようにしてゆくこと。永遠や一瞬という病から離れること。克服するのでなく子供のころのようにそんなものと無縁になること。