『われらの時代・男だけの世界 --ヘミングウェイ全短編1--』(高見浩訳)

われらの時代・男だけの世界 (新潮文庫―ヘミングウェイ全短編)

ヘミングウェイというとマッチョなイメージが強いけど、初期に書かれたこの短編集に収められた作品、中でも自伝的な色彩の強いものを読むと、内省的な文学青年としての側面を強く感じる。この短編集でも、戦争、闘牛、ボクシングなど血なまぐさいテーマの作品が多いけど、むしろそういう弱々しいところを克服するために、従軍したり、男性性を誇示するようなポーズをとり続けたような気がしてくる。そういう意味では、日本でいうと三島由紀夫と似ているといっていいのだろうか。少なくとも、最後自殺したところは同じだ。

小説家に限らず芸術家は、死後評価が高まってクラシックとして殿堂入りするか、徐々に忘れられていくか、どちらかの道をたどると思うが、ヘミングウェイに関しては、生前の名声があまりにも高かったので、まだまだ全然余裕だが、長い目でみると後者のほうに入っているのかもしれない。所収されている『三日吹く風』という作品の中に当時の作家や作品についての会話があるけど、ジョージ・メレディス、モーリス・ヘンリー・ヒューイット、ヒュー・ウォルポールなんてもはや知らない(いや、ぼくが不勉強なだけか)。でも、チェスタトンは知っている。ヘミングウェイという名前をきいて、チャンドラーの『さらば愛しき女よ』にでてくる悪徳警官の名前を先に思い出して、その由来が小説家だとわかって驚くという時代がこないとも限らない。

でも、『老人と海』だけは読まれ継がれそうな気もする。それをヘミングウェイが喜ぶかどうかは別として。