いとうせいこう『ノーライフキング』

ノーライフキング (新潮文庫)

絶版になった新潮文庫版を探しまわってどうにかブックオフでみつけたが、河出文庫版が出ていたのだった。まあ、安く入手できたからよしとしよう。

ゲームソフトを媒介にして子供たちの間に広がる噂をテーマにした作品。本作が書かれた1988年から、インターネットとモバイルネットワークの普及にともない、根拠のあるなしにかかわらずさまざまな噂が飛び交うようになった現代を予見した作品ととらえるのが、まあ順当な読み方だけど、むしろぼくには「死」とそれによる世界の分断が主要なテーマだと思えた。

それも死が遠いはずの子供たちの目から見た、抽象的である分かえって純粋な「死」だ。子供たちは自分がゲームの主人公の「ライフキング」ではなく途中で犠牲となって死んでいく「ハーフライフ」の一人であることを認識している。そして「ハーフライフ」がそうするように自らの生きた証しを言葉として刻みつけようとし、まわりに呪術的なアイテムを配置していく。それはもう単なる噂の領域を越えて、もうひとつの現実となって子供たちの世界を塗りつぶす。同じ空間を共有しながら、大人たちと子供たちは、ちがう「死」を怖れ、まったく別の世界を生きている、そんな状況を描いた作品だと思う。