岸本佐知子編訳『変愛小説集II』
「恋愛」じゃなく「変愛」。編訳者によるあとがきから引用すると「愛にまつわる物語でありながら、普通の恋愛小説の基準からはみ出した、グロテスクだったり極端だったり変てこだったりする小説」を集めたアンソロジーの2集目。最初は当然のように1集目から読もうと思っていたが、たまたま本屋に置いてなかったので、こちらを手に取った。サイン本だ。
まず収録されている11編をリストアップしておこう。
- ステイシー・リクター『彼氏島』
- アリソン・スミス『スペシャリスト』
- ミランダ・ジュライ『妹』
- アリソン・ベーカー『私が西部にやって来て、そこの住人になったわけ』
- スティーヴン・ディクソン『道にて』
- スコット・スナイダー『ヴードゥー・ハート』
- レナード・マイケルズ『ミルドレッド』
- ポール・グレノン『マネキン』
- ダン・ローズ『人類学・その他100の物語』より
- ジュリアン・スラヴィン『歯好症』
- ジョージ・ソーンダーズ『シュワルツさんのために』
名前を聞いたことがあったのはミランダ・ジュライくらいだったけど(それもパフォーマンス・アーティストとして)くらいだったけど、それぞれ個性的な作品ばかりでおもしろかった。
様々なタイプのイケメンでやさしい男たちが暮らす孤島に流れ着いた女子学生の幸福と絶望を描いた『彼氏島』。愛している女性と結婚しようとするときまって感情が爆発してぶちこわしにしてしまう男が主人公の『ヴードゥー・ハート』は廃墟から復元した邸宅、隣の女性刑務所、失踪をくりかえした祖父の物語などをからめて、とてもよくできた短編小説に仕上がっていた。
そのほかの作品も、パートナーの変容、喪失、そもそもの不在がテーマになっていて、あまり「変」という感じはしなかった。ふたたび後書きから引用すると、「変な愛を描きつつも、愛とはそもそも変なものであることを逆に浮き彫りにし、その変さゆえにかえって純愛小説に近づいている」。さらにいうと、どんなでも「変」なものをたくさん集めることでしか「純」なものにはたどりつけないのかもしれない。もともと日本語で書かれた小説だけだと、その「変」のバラエティーが不足してしまうので、こうして「変」なものを見つけてきて翻訳してくれる岸本佐知子さんのような存在はほんとうにありがたいと、あらためて思うのであった。