コーマック・マッカーシー(黒原敏行訳)『ザ・ロード』

ザ・ロード

久しぶりに心がうちふるえる読書体験だった。

世界の終わりを描いた文学作品は数多くあれど、これはその中でも究極的に苛酷な状況。

おそらく核戦争で地球が焼き尽くされてから何年かが経過したあとの世界。核の冬により気温が急激に下がり、動植物はほぼ絶滅している。ごく少数の生き残った人間たちは、残り少ない食料をめぐって万人の万人に対する闘争状態におちいり、食べるために人を襲う人食い集団が跋扈する。そんな中を、父と少年の二人は少しでも暖かい土地を求めて南へ徒歩で旅する、「火を運び」ながら。

読点と会話の括弧を省いた緊張感と比喩にあふれる独特の文体で描かれた終末の世界は、読む側にとってもとても苛酷で、すべての希望を捨てて、ページをめくっていた。しかし、読み進めるうちに、どんな悲惨な状況になっても純真さと善良さを失わない少年の存在が、かすかな光を放ち始めた。

読み終わってはっきりわかった。「火」というのは生命そして言葉のことであり、彼らはそれを運んでいたのだ、南ではなく未来へと。