『掃除婦のための手引き書 ルシア・ベルリン作品集』(岸本佐知子訳)ebook

掃除婦のための手引き書 ルシア・ベルリン作品集

この本を紹介する方法で、すぐに思いつくのは、作者はこういう人で、こういう人生を送って、それと作品にはこんな関係があるんですという、ライ麦畑のホーラン言うところの《デーヴィッド・カパーフィールド》式のやり方だ。この作者の場合、このやり方で書くべきことはとても多いし、たぶんそれだけ読んでも興味深いと思う。しかし、それだと彼女の作品の成り立ちは説明できるけど、魅力は伝わらない。そう、伝えたいのは魅力の方だ。ところが、その魅力は、生半可に説明してもだめで、実際読んでみないことにはわからないと思う。それも詩集の詩を読むみたいに一編一編時間をおいてじっくり読んだ方がいい。

知っている作家で一番テイストが似ていると思ったのはレイモンド・カーヴァーだ。さりげない日常的な光景に鮮烈なイメージを絡ませる。彼女の場合は、日常の光景がさりげないことはなく、いつでも波乱とその予感に縁取られているのだが。そして、突然時空が飛んだり、話題がそれたりする。話好きな人の際限のないおしゃべりのように。しかもそれは計算されているのだ。

一度読了して終わりじゃなく、折に触れて一編ずつ、何度も読める本だ。おそらくその中から見えてくることの方が多いはずだ。今からわくわくする。

★★★