山尾悠子『増補 夢の遠近法 初期作品集』

増補 夢の遠近法: 初期作品選 (ちくま文庫)

最近文庫で新刊がでて、山尾悠子という名前を初めてきいたのだが、読むならまず初期作品集と銘打ったこちらだろうと大きな本屋にいって入手した。

分類すれば幻想小説なんだけど、まさか日本語圏にここまで幻想世界の構築力にあふれた書き手がいるとは思わなかった。しかもそれが硬質で語彙力豊かな文体にマッチしている。なぜいままでぼくが知らなかったのかということが謎だ。

本書に収録されているのは1955年生まれの筆者が1976年〜1985年に書いた短編・中編13篇。このあと長いこと休筆していたそうなので、それがぼくが知らなかった原因だろう。

冒頭の処女作『夢の棲む街』からすでに奇妙で興味深い街や世界を作りあげる技が冴え渡っている。もうひとつ特筆すべきはその残酷さだ。日本の書き手は何を書いてもどこかはんなりとして柔和になってしまうことが多いのだけど、情け容赦なく人(以外のものも含めて)は死に、世界は破壊される。

個人的には、現実の京都を舞台にした『月蝕』や、ドッペルゲンガーものの『私はその男にハンザ街で出会った』が、現実の世界と近い空間を舞台にしているものの、ふわふわした不条理感が好きだ。

★★★