多和田葉子『献灯使』ebook

献灯使 (講談社文庫)

短編集だが、表題作の『献灯使』は全体の半分以上を占める中編。度重なる災害で衰退し鎖国している未来の日本が舞台。老人は元気で死ななくなり、子どもたちは虚弱になり、老人が子どもたちの介護をするようになっている。二人きりで暮らす、百歳を向かえた義郎とその曾孫無名が主人公。典型的なディストピアなんだけど、そんなに切羽詰まった感じはない。どこかのほほんとしてとぼけた世界だ。最後の数ページで棍棒でなぐられたかのような衝撃が走る。

『韋駄天どこまでも』は以前『変愛小説集 日本作家編』で読んだことがあったので再読。

『不死の島』は『献灯使』の背景説明的な掌編。

『彼岸』は、さらなる原発事故で人が大量に死に、住めなくなった日本から脱出する人を描く。

最後の『動物たちのバベル』。これは小説ではなく戯曲。人類絶滅後生き残った動物たちの会話劇だ。ユーモラスでシュールな展開なので、実際に上演をみてみたい。

作者はドイツ在住で、書かれたのは2014年頃のようだが、最後の戯曲をのぞけば、原発事故や地震の影響が如実にあらわれた作品だった。

★★