ハンス・ロスリング、オーラ・ロスリング、アンナ・ロスリング・ロンランド(上杉周作、関美和訳)『FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』ebook

FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣

枕として、世界の現状に関する13の簡単な設問があり、それに答えてみてくださいと、言われる。ぼくは本書の性格を知った上で答えてしまったので、8/13とまあまあの正解率だったが、世界的に識者やエリートであってもランダムに選んだより正解率が低いらしい。その原因を分析、考察して10の人間固有の「本能」(というより思考の偏り)をあぶり出し、それらを克服して、世界を正しく理解しようという啓発を目的とした本。

その10の本能をぼくの言葉でパラフレーズしてみる。

  • 「分断本能」 - 連続するものの一番上と一番下だけをみて二つのグループに分類して考えてしまうこと。中間をみよう。
  • 「ネガティブ本能」 - 悪いニュースばかり注目してしまうこと。
  • 「直線本能」 - 変化はリニアだと思い込む。実際はさまざまな変化のパターンがある。
  • 「恐怖本能」 - 恐怖心による認知の歪み。恐怖と危険は関係ないことを意識する。
  • 「過大視本能」 - ひとつの数字だけに注目してしまう。数字は大事だけど、ひとつの数字だけをみていても何もわからない。いくつかの方法で比較することが必要。
  • 「パターン化本能」- 分類しカテゴライズしてしまうと、その集合の中は均質であるように思い込んでしまう。グループ内の差異やグループ間の類似性に目を向ける。
  • 「宿命本能」 - ある性質を永久不変と思い込んでしまうこと。実際は環境で大きく変わる。
  • 「単純化本能」 - ひとつの視点を万能視してどんなこともそれで説明しようとすること。臨機応変に適切な視点を用いるべき。
  • 「犯人捜し本能」 - 犯人を見つけてそれで安心してしまうこと。原因を探す。
  • 「焦り本能」 - すぐやらないとだめだと思い込んでしまうこと。

これらはSNSで流通してる短絡的な意見全般に当てはまる気がする。

世界は全体としては思ったよりよくなっている(だから希望をもってするべきことをしろ」というのが隠しようのないメッセージで、この本はプロパガンダ本なのだ。取り上げている話題やデータにそういう偏りがあるのを感じるかもしれない。ただ、決してネガティブな部分を隠しているわけではないし、いろいろなリスク要因についても触れられている。

本書は3人の著者(父、息子、その妻という家族だ)による連名だが、その中のフロントすなわち一人称の語り手であるハンスさんは本書の完成を待たずガンで亡くなってしまったとのこと。死を意識しながらこういう前向きな本を書けたことがすごい。

★★★