クリストファー・プリースト(古沢嘉通訳)『夢幻諸島から』
舞台となる夢幻諸島(The Dream Archipelago)の位置条件は地球上のそれと矛盾するので、地球外の惑星なのかとも思うが、文花や文明の到達度は、インターネットやスマフォ隆盛の現代のわれわれと極めて近い。あり得べき異世界と考えればいいのかもしれない。
夢幻諸島のいろいろな島の地誌を紹介する体の作品。ときおり地誌というより諸島の人物に焦点をあてた短編小説的コンテンツがはさまって、これが抜群におもしろい。特に『凍える風/大提督劇場』はスティーヴン・ミルハウザーみたいな雰囲気で特に好きだ。それぞれの物語は高名な小説家のチェスター・カムストンや社会運動家のカウラーなど共通の人物を介してゆるやかに関連している。不思議なのは、カムストンは本編の記述では数年前以上に病死したことになっているが、本書の序文を寄せており、本編にすべて目を通したといっていることだ。その手の「信頼できない語り手」という要素は本書に握らずプリーストの作品全般の特徴らしい。
訳者あとがきでわかったが、夢幻諸島は本書ではじめて登場したものではなく、プリーストの作品には何度かでてきているもののようだ。この感想を書くにあたり、それらの作品との整合性はとりあえず気にしないことにする。
ところで、本書を読了したことで、長らく電子積ん読だった書籍をすべて消化した。めでたい。
★★★