フィリップ・K・ディック(山形浩生訳)『聖なる侵入』
引き続いて三部作の第二作を読む。
前作『ヴァリス』が現代を舞台にしてSF要素が希薄だったのに対し、本作は形式的にはまちがいなくSFだ。辺境の惑星で自分のドームでひきこもり生活をしているハーブ・アッシャーに突然現地の山に住む神ヤーの声がきこえる。実はヤーは追放された地球の神で、ハーブの隣人ライビス・ロミーを処女懐妊させ、彼女とともに地球に帰ろうとしている。カムフラージュのため、ハーブには、おなかの子の父親として、一緒に地球に帰れというのだ。彼らはなんとか地球に帰り着くが、事故によりライビスは亡くなり、ハーブも臓器移植を待つ間10年間仮死状態になってしまう。しかしおなかの子は脳に損傷を負うもののエマニュエルと名づけられ成長する。
形式はSFだが、テーマは『ヴァリス』と通底するディックの神学で、せっかくSFという装いをまとっているのに、物語はあまり展開しない。最後はハッピーエンドだが、なんか唐突にご都合主義的に終わるのだ。かわりに、神学的な対話がかなりの部分を占めていて、そっちを書きたかったんだというのがよくわかる。
訳者によるあとがきが本編以上におもしろかった。
★★