神原正明『『快楽の園』を読む ヒエロニムス・ボスの図像学』

『快楽の園』を読む ヒエロニムス・ボスの図像学 (講談社学術文庫)

9月に渋谷でベルギー奇想の系譜展という展覧会を見てきた。展示の中心の一つはヒエロニムス・ボスの作品で、もちろん今回来てなかったのだがプラド美術館にある大作『快楽の園』に対する興味をかきたてられたところにたまたま美術館の上の本屋で見かけたのが本書。

『快楽の園』は500年前に描かれたと思えないくらいポップでキッチュであり、あまりにもたくさんの不思議な人物や場面が書き込まれていて、ちょっと整理してくれるものがほしかった。

今回最大の発見は極楽、現世、地獄の3枚のパネルを閉じたときにみられる外翼パネルがあってそこにも絵が描かれていること。中の極彩色の絵とは違って天地創造の時の世界を描いたグレーのとても地味な絵なのだ。

とじ込みで作品のカラー写真が掲載され、折に触れてモノクロだが拡大図があるけど、やはり文庫本のサイズでみるのは厳しい、スマフォで画像を開きつつ文字を追うのはなかなか厳しかった。

当時は世界は神意のメタファーだと考えられていて、画家も当然のようにメタファーを作品の中に織り込んでいた。そのメタファーひとつひとつについてこれまで語られてきた批評家の意見が紹介されてゆくが、必ずしもこれが正解というものではなく、読んでもむしろわからなくなっていくばかりだ。ただ、そんなふうに絵の細部に次から次へ注意をむけてゆくことがおもしろい。本書の独自の観点といえるのはおそらく登場人物の視線に注目したことだ、天国、現世、地獄の境界をまたいで視線が有機的に連鎖して世界が構築されていることがわかった。

今はネットでかなりの高精細で絵の細部までみることができて、それはそれですごいことなのだが、いつか実物をみてみたい。