北杜夫『人工の星』
そういえば北杜夫にSF的でなんともいえない味わいの作品あったよなと思ってつきあたったのがこの本。北杜夫の作品の中からSF的なものをかき集めたアンソロジーだ。読み終わってわかったのだが、ぼくが読みたかった作品は収録されてなかった。
軽くて短いショートショート作品が多い。そのなかでは『意地悪爺さん』という作品が筒井康隆的でおもしろかった。どこがSFなのか首をひねる作品もあって、筆者お得意の極上のユーモア小説の『第三惑星ホラ株式会社』とまじめ一方だった中年男の現実からの逃避行?を描いた『活動写真』がそうだ。一周して北杜夫らしさが感じられかえっておもしろかったのだった。
表題作の『人工の星』は短編というより中編といったほうがいい長さ。近未来、第三次世界大戦後の日本を舞台に少年と少女に翻弄される初老の男を描いた作品だ。『活動写真』の結末とあわせるとちょっとトーマス・マンの『ヴェニスに死す』を彷彿とさせる。断片的にしか語られないのでこの社会がどういう社会なのかははっきりとはわからない。精神分析が半ば義務化され、広告があふれ、石油は枯渇しそうで、機械が支配し、監視の目が光り……。主人公が初老という設定だし全体的にうち沈んだトーンからかなり後年に書かれた作品かと思ったら初期も初期、『夜と霧の隅で』以前の初期作品のようだ。全編夢の中をさまよい歩いているような作品。そのとらえどころのなさが魅力だった。
収録作のリスト:
- 第三惑星ホラ株式会社
- 空地
- 贅沢
- 意地悪爺さん
- うつろの中
- 童女
- 買物
- 推奨株
- 陸魚
- 月世界制服
- 活動写真
- 朝の光
- 人工の星