グレッグ・イーガン(山岸真、中村融訳)『エターナル・フレイム』
この世界とはちがう物理法則をもつ世界を舞台にした三部作の二作目。
母星の危機を救う方法を見つけるため、山をまるごと宇宙に吹き飛ばして何世代にもわたる旅に出た《孤絶》の一行。第一作では《孤絶》の出発と搭乗した最初の世代が直面する問題が描かれたが、本作ではそれから3世代あとの第四世代の人々にふりかかる二つの問題の解決が描かれる。
ひとつは母星に帰るための手段の確保。彼らは片道切符で出発したのだ。ほぼなにも存在しない宇宙空間で遭遇した《物体》と呼ばれる岩のかたまりへのロケットによる探検計画とこの世界の量子論に相当する理論(この部分は理解するのを諦めて飛ばし読み)の構築が並行して進む。
もうひとつは女性が節食をしいられる問題。この世界の人は女性が分裂することで生殖する(つまり女性にとって生殖は死を意味する)。通常4人に分裂するためそのままでは人口が増え、限られた孤絶のスペースでは食料が不足してしまう。そこで飢餓状態であれば4人でなく2人にしか分裂しない可能性が高まるということから節食を強いられているのだ。それを解決するための研究が予想もしなかったブレークスルーへつながる。
これらの問題に立ち向かう3人の研究者たち——天文学者タマラ、物理学者カルラ、生物学者カルロ——の探求の物語がやがてひとつに絡み合ってゆく。
彼らの社会が興味深い。どうやら彼らに宗教はないようなのだ。性役割の原理主義的なものものはあるけど、概ね人々は開明的で新しい習慣を受け入れる。21世紀にもなって様々な原理主義の影に怯えなくてはいけない我々に比べるととてもうらやましい。