ジャック・ヴァンス(日夏響訳)『終末期の赤い地球』
タイトルにひかれて読んでみた。1950年、ヴァンスのキャリアの最初期に書かれた作品だ。タイトルはSFみたいだがむしろ魔法が活躍するファンタジーだった。
太陽の力が衰えたはるか未来の地球。そこは魔物が跳梁跋扈し科学技術にかわって魔法が使われる世界だった。本書はこの設定をベースにした6編からなる連作短編だ。登場人物が若干重複するが基本的には独立したストーリー。遺跡や廃墟がたくさんでてくるが魔法のインパクトが強すぎて、衰退している状況はそんなに印象に残らない。
冒頭からいきなり、悪辣な魔術師にとらわれている自分の主人を解放させるため、魔術師をおびきよせる魔法でつくられた人造少女の物語で、ある意味王道だった。
たまにはこういうひたすら荒唐無稽なのも悪くない。
ところで、5番目の作品『夢の冒険者ウラン・ドール』で同じ街に住んでいながら別の神を崇める緑の服の人たちと灰色の服の人たちが互いを認識できないと設定があって、これはひょっとするとチャイナ・ミエヴィル『都市と都市』に影響を与えていないだろうか。
訳者の日夏響は物故されているようで巻末に著作権の継承者を探していると書かれていた。見つかっただろうか。