チャイナ・ミエヴィル『都市と都市』

都市と都市 (ハヤカワ文庫SF)

主人公の警官がある身元不明の女性の殺人事件を捜査する物語で、そこの部分はとてもよくできた典型的なミステリー。特徴的なのは、物語の舞台だ。

時代はほぼ現代、2010年近辺。登場するテクノロジーももちろん現代のものだ。東欧、バルカン半島にある小国、いや正確には舞台になるのは二つの都市国家だ。その二つの都市ベジェルとウル・コーマは同じ地域にパッチワークのように複雑に絡み合って存在しており、そこに暮らす人々は向こう側にはみ出さないように、そして向こう側の人々や建物を見ないように厳格に習慣づけられている。それに違反すると(その行為は「ブリーチ」と呼ばれる)両国家とは独立の警察的権力である「ブリーチ」にどことも知れぬ場所に連れ去られてしまう。(そして「ブリーチ」たちがふだん潜む場所もまた「ブリーチ」と呼ばれている)。

レッシグ風にいうと、本来国境線という形でアーキテクチャーとして統制すべき行動を、規範=コードの層で統制しているのだ。みな、見る/見ないという能動的な行動の制御だけでなく、見られる側として、服装や歩き方で自分が所属する都市がはっきりわかるようにしている。そういう習慣は子供の頃からあまりにも深く身についているので、街の中央にあるホールで入国手続きをして相手側の都市に行くときには、今まで見えていたものを見えなくして、見えなかったものが見えるようにするため数日間にわたる訓練を行わなくてはいけない。

タイムトラベルとか宇宙人とかSFにつきものの派手なギミックは登場しないけど、この設定が徹底してSFだ。しかも、捜査が進むにつれ、主人公の捜査官ボルルは両都市の間にあるといわれる伝説的な第3の都市オルツェニーをめぐる謎と陰謀に巻き込まれていくのだ。物語は途中まで抑制気味に進むが、ボルルが死んだ女性の行方不明になっていた友人をみつけたあと、一気に加速がつき、クライマックスの謎解き、そして独特の余韻を含んだエンディングへと流れ込んでいく。いやあ、おもしろかった。

★★★