ウイリアム・サローヤン(柴田元幸訳)『僕の名はアラム』

僕の名はアラム (新潮文庫)

十年ちょっと前サローヤンにはまった時期があったがその頃この作品の入手が難しくて読めなかった。村上柴田翻訳堂のおかげでようやく読めた。しかも柴田さんの新訳だ。

サローヤン自身をモデルにしたアラムという少年が友達や親戚たちと繰り広げる心温まるユーモラスな連作短編集。代表作なのでもっと肩肘張ったものかと思ったけど、軽くて水のように読めてしまった。それも味わい深い美味しい水だ。

特にどこに連れて行かれるかわからないという点で『三人の泳ぎ手』が好きだ。珍妙な言葉遣いのよろず屋の店番ミスター・アボットと二十年後彼の凄さに気がつくところがいい。

訳者あとがきに書いてあるようにサローヤンが悪から目を背けた物語ばかり書いていたという批判はその通りで確かに物足りなさを感じるけど、逆に今こういう楽観主義が必要とされている気がする。世界は悲観と悪をありがたがりすぎている。

この十年の間サローヤンたちアルメニア移民の子孫のことをちょっとだけ知るようになった。一つにはジャズの世界ではアルメニアをルーツとする音楽家たちは無視できない存在になっている。そして19世紀から20世紀へ移り変わる時期に起きたトルコによる虐殺のこと。『哀れな、燃えるアラブ人』に出てくるおじの友人は物語の中では語られないがアラブ人ではなくクルド人で、同じくトルコから逃げてきた人なのではないか。サローヤンには珍しいこの世界の残酷さに対する悲しみをかすかに感じる。

今まで読んだサローヤンの本。